診療所開設のための一般社団法人の設立
医師・歯科医師個人、医療法人が診療所を開設できることは知っているが、一般社団法人で本当に診療所の開設ができるのか疑問をお持ちの方もいるかと思います。医療法第7条をよく見てみると、「医師及び歯科医師でない者が診療所を開設するとき、~」と書かれており、これにより開設者が医療法人に限定されていないことが分かります。
一般社団法人で診療所を開設する場合、法人設立時の定款や人員構成等が非常に重要です。診療所を開設するための一般社団法人ですので、法人設立時より非営利性の確保が必要となります。
一般社団法人での診療所開設をご検討の際は、法人を設立する前にぜひご相談ください。
一般社団法人での診療所開設のメリット
①非医師でも代表者になることができます
医療法人の場合は、医師又は歯科医師でないと理事長になることができませんが、一般社団法人の場合、その定めがないため、非医師でも代表者になることができます。
自身は医師だがお子様は非医師の場合、医療法人ではお子様に承継できませんが、一般社団法人であれば、お子様が代表者となり承継することも可能です。
②いつでも設立が可能
医療法人の場合は、年2、3回しか設立のチャンスがありませんが、一般社団法人の場合、いつでもご自身のタイミングで設立が可能です。
③業務の制限がありません
医療法人の場合、行うとこができる業務が限られており、診療所等の本来業務と、医療法第42条に定められた訪問看護ステーション等の附帯業務のみ行うことができますが、一般社団法人の場合は、その制限がありません。
非営利性の確保とは
非営利と聞くと、利益を出してはいけないように思われがちですが、そうではありません。「非営利を確保する」とは、主に下記の3つの要件を満たすことを示します。
- 医療機関の開設主体が営利を目的とする法人でないこと
- 医療機関の運営上生じる剰余金を配分しないこと
- 解散した場合の残余財産は、国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与すること
このほかにも、厚生労働省からの通知『医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について』において必要な要件が記載されていますので、しっかりと記載の確認事項を理解した上で、法人の人員構成、運営方針、資金計画等を決めていく必要があります。
非営利性が徹底された法人とは
一般社団法人では営利的な活動もできますが、診療所を開設する場合は、税法で定める「非営利性が徹底された法人」を選択するのが最適です。
非営利性が徹底された法人の要件は以下のとおりです。
- 剰余金の分配を行わないことを定款に定めていること。
- 解散したときは、残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与することを定款に定めていること。
- 上記1及び2の定款の定めに違反する行為(上記1、2及び下記4の要件に該当していた期間において、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを含みます。)を行うことを決定し、又は行ったことがないこと。
- 各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること。
4については、医療法人と大きく異なる点ですので注意が必要です。
これは医療法ではなく法人税法の定めですが、実際にいくつかの保健所では、4の要件を満たすことについての確認や誓約書の提出が求められています。
一般社団法人による診療所開設
一般社団法人で診療所を開設する場合、医療法人と異なり、都道府県での認可がなく、原則、「管轄の保健所による開設許可申請」からスタートします。
保健所の開設許可申請から許可までに要する期間は、管轄の保健所により様々です。
加えて、保健所ごとに提出が必要な書類も異なりますので、保健所に事前相談をして、各保健所のチェックポイントを把握しておくことが重要です。
医療法第7条第7項では、「営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第四項の規定にかかわらず、第一項の許可を与えないことができる。」と定められています。
つまり、「営利を目的としないこと」を保健所に示さなければなりません。そのためには、厚生労働省からの通知『医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について』を私たち行政書士だけでなく、開設者の皆さまにもしっかり理解いただき、開設時だけでなく今後の運営においても遵守できる体制の構築が必要です。
なお、千葉県の場合は、非営利性の確保の部分については、千葉県が一般社団法人による医療機関の計画についての審査をするため、事前相談は保健所ではなく、千葉県に行います。