医師・歯科医師個人、医療法人が診療所を開設できることは知っているが、一般社団法人で本当に診療所の開設ができるのか疑問をお持ちの方もいるかと思います。医療法第7条をよく見てみると、「医師及び歯科医師でない者が診療所を開設するとき、~」と書かれており、これにより開設者が医療法人に限定されていないことが分かります。
一般社団法人で診療所を開設する場合、法人設立時の定款や人員構成等が非常に重要です。
一般社団法人での診療所開設をご検討の際は、法人を設立する前にぜひご相談ください。
医療法人と一般社団法人の違い
診療所を法人化する際、まず思い浮かぶのは「医療法人」ですが、医療法人では理事長になれるのは医師または歯科医師に限られています。そのため、医師や歯科医師の親族がいない場合、承継が難しく、閉院している診療所が多くあるのが実情です。
一方、一般社団法人であれば、非医師の子・親族が代表理事となり、医療機関を引き継ぐことができます。日本医師会が全国の病院・診療所に行った「医業承継実態調査」(2020年)によると、診療所(無床)の52.4%が「現段階で後継者候補はいない」と回答しており、高齢社会の進行とともに医業承継の課題はさらに深刻化することが予想されます。
このような背景から、今後は医療法人だけでなく、一般社団法人を活用した診療所の承継方法を選択するケースが増えることが予想されます。
| 医療法人 | 一般社団法人 | |
|---|---|---|
| 法人の設立 | 都道府県の認可を得て、 登記申請 | 登記申請のみ |
| 設立の時期 | 年3回の受付(千葉県) | いつでも可能 |
| 診療所開設 | 都道府県の認可と 保健所による開設許可が必要 | 保健所による開設許可が必要 |
| 診療所開設までの期間 (見込み) | 9~10か月程度 | 3~4か月程度 ※千葉県の場合、審議会の時期により長くなる場合があります。 |
| 理事長の要件 | 医師又は歯科医師のみ | なし(非医師でも就任可) |
| 社 員 | 3名以上 | 3名以上が望ましい |
| 役 員 | 理事3名以上(理事会設置) 監事1名以上 | 理事3名以上 監事1名以上(理事会設置の場合) ※理事は親族等が1/3以内 |
| 業務の制限 | 制限あり | 制限なし |
| 拠出金の制限 | あり | なし |
| 債務の引継ぎ | 制限あり | 制限なし |
| 都道府県への届出 | あり | なし ※千葉県の場合は一部あり |
| 配 当 | 不可 | 不可 |
| 新規診療所の法人化 | 原則不可(行政指導により2年程度の個人開設実績が求められる) | 可能 |
| 分院開設 | 可能 | 可能 |
一般社団法人での診療所開設のメリット
①非医師でも代表者になることができます
医療法人の場合は、医師又は歯科医師でないと理事長になることができませんが、一般社団法人の場合、その定めがないため、非医師でも代表者になることができます。
自身は医師だがお子様は非医師の場合、医療法人ではお子様に承継できませんが、一般社団法人であれば、お子様が代表者となり承継することも可能です。
②いつでも設立が可能
医療法人の場合は、年2、3回しか設立のチャンスがありませんが、一般社団法人の場合、いつでもご自身のタイミングで設立が可能です。
③業務の制限がありません
医療法人の場合、行うことができる業務が限られており、診療所等の本来業務と、医療法第42条に定められた訪問看護ステーション等の附帯業務のみ行うことができますが、一般社団法人の場合は、その制限がありません。
診療所開設のための一般社団法人の設立
診療所を開設するための一般社団法人ですので、法人設立時より非営利性の確保が必要となります。
医療法第7条第7項では、「営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第四項の規定にかかわらず、第一項の許可を与えないことができる。」と定められています。
つまり、「営利を目的としないこと」を保健所に示すことができる定款の内容・人員構成にすることが設立時のポイントです。
社員・役員構成のポイント
社員とは 3名以上(望ましい)
1人1票の議決権を持った一般社団法人の重要な決定権をもつ立場の者です。
社員は、役員(理事・監事)の選任・解任をする権限があるため、「社員総会で多数派を占める」ことができるようメンバーを選任することが重要です。
理事とは 3名以上
理事3名以上のうち1名が代表理事となり、社員総会の意向に基づいて、業務執行を行います。代表理事は、医療法人とは異なり、非医師が就任することも可能です。
理事選任時に注意しなければならないのは、「当該医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員の兼務ができないこと」です。これは、厚生労働省からの通知『医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について』に記載されています。
開設許可の審査に当たっての確認事項として、「医療機関の開設許可の審査に際し、開設申請者が実質的に医療機関の開設・経営の責任主体たり得るか及び営利を目的とするものでないか否かを審査するに当たっては、開設主体、設立目的、運営方針、資金計画等を総合的に勘案するとともに、以下の事項を十分に確認した上で判断すること。」と記載があり、その1つが「当該医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員の兼務」の確認です。
なお、理事会を設置するかは任意ですが、営利を目的としていないことを保健所に示す観点から、医療法人に準じて理事会を設置した一般社団法人を設立するのが最適です。
監事とは 1名以上(理事会を設置する場合)
理事の職務の執行の監査や一般社団法人の計算書類等の監査を行います。監事は、理事をチェックする立場にあるため、理事や法人の職員を兼ねることはできず、取引関係のない第三者を選任します。
また、理事同様、当該医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務することはできません。
非営利性が徹底された法人とは
一般社団法人では営利的な活動もできますが、診療所を開設する場合は、税法で定める「非営利性が徹底された法人」を選択するのが最適です。
非営利性が徹底された法人の要件は以下のとおりです。
- 剰余金の分配を行わないことを定款に定めていること。
- 解散したときは、残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与することを定款に定めていること。
- 上記1及び2の定款の定めに違反する行為(上記1、2及び下記4の要件に該当していた期間において、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを含みます。)を行うことを決定し、又は行ったことがないこと。
- 各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること。
4については、医療法人と大きく異なる点ですので注意が必要です。
これは医療法ではなく法人税法の定めですが、実際にいくつかの保健所では、4の要件を満たすことについての確認や誓約書の提出が求められています。
一般社団法人による診療所開設
一般社団法人で診療所を開設する場合、医療法人と異なり、都道府県での認可がなく、原則、「管轄の保健所による開設許可申請」からスタートします。
なお、千葉県の場合は、非営利性の確保の部分については、千葉県が「一般社団法人による医療機関の計画」を審査をするため、千葉県での審査完了後に、保健所の開設許可申請となります。
法人設立~診療所開設までの流れ(千葉県の場合)


診療所開設許可申請時の注意点
審査期間
ここでは、千葉県の場合をご説明いたします。
上述のとおり、非営利性の確保の部分については、千葉県が審査をしますので医療機関開設計画書の必要書類等は、千葉県医療整備課に確認をします。
また、原則、医療審議会の審議を経て、審査完了となります。そのため、医療審議会の開催時期によって審査期間も変わってきますので、事前確認と計画的な準備が必要です。
医療法人の設立認可申請と異なり申請はいつでも可能ですが、審査期間の見通しが立てにくいのがこの手続きの難点です。
非営利性の確保とは
非営利と聞くと、利益を出してはいけないように思われがちですが、そうではありません。「非営利を確保する」とは、主に下記の3つの要件を満たすことを示します。
- 医療機関の開設主体が営利を目的とする法人でないこと
- 医療機関の運営上生じる剰余金を配分しないこと
- 解散した場合の残余財産は、国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与すること
このほかにも、厚生労働省からの通知『医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について』には、開設申請者が実質的に医療機関の開設・経営の責任主体たり得るか及び営利を目的とするものでないか否かを審査するに当たっての確認事項として、以下の内容が記載されています。(一部抜粋)
- 開設者が、当該医療機関を開設・経営する意思を有していること
- 開設者が、他の第三者を雇用主とする雇用関係(雇用契約の有無に関わらず実質的に同様な状態にあることが明らかなものを含む。)にないこと
- 開設者である個人及び当該医療機関の管理者については、原則として当該医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務していないこと
- 開設者である法人の役員については、原則として当該医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務していないこと
- 開設者が、当該医療機関の収益・資産・資本の帰属主体及び損失・負債の責任主体であること
これらを理解した上で、開設時だけでなく開設後の運営においても遵守できる体制の構築が必要です。
一般社団法人で開設する目的・理由
医療法人制度がある中で、一般社団法人での診療所開設を選択した理由については、多くの保健所で確認があります。
千葉県では、以下の2つの理由書の提出が必要です。
- 理事長(代表理事)が医師でない場合、その理由書
- 医師個人又は医療法人で開設できない理由書
一般社団法人を選択する理由は様々で、診療所の永続性を考慮して選択する場合もあれば、代表を非医師にする必要があり、一般社団法人を選択した場合もあると思います。
一般社団法人での診療所開設は、法人を設立する時点で一般社団法人で診療所を開設する必要性を明確にし、定款の目的や人員構成を熟考するところから始まります。
医療法人と一般社団法人の違いや非営利性の確保の理解が不十分なまま設立した一般社団法人は、開設許可の審査の段階で非営利性の確保等に疑義が生じ、スムーズに許可が下りないケースも少なくありません。
一般社団法人での診療所開設をご検討の際は、法人を設立する前にぜひご相談ください!